円安は喜ぶべきか、悲しむべきか

今年のゴールデンウィークは久々に行動制限のない長期連休となりました。欧米を中心にコロナに対する制限を解除している国も増えましたから、久々に海外旅行を楽しんでいる人も多いようです。

ただそこで問題になっているのは円安ですね。実は円安・円高の影響を最もストレートに受けるのは海外に行くときですから、今回の急な円安は海外旅行先で使えるお金が減ることになりますから、困った人も多かったんじゃないかと思います。

今回の円安は結構大きな変化で、1ドルー130円を超えるレベルになってきています。これまでは110円程度でしたから、一気に20円の円安(約18%)になっている感じです。

ここで考えないといけないのは、円安は喜ぶべき事なのか、それとも悲しむべき事なのかという事です。何となくテレビなどの主張を見ていると円安は悪いもの、特に今回の円安は悪い円安だ、と言っているように感じますが、本当でしょうか?

基本的に円安や円高という為替レートは対象となる通貨の価値の差によって発生します。現在アメリカは非常に景気が良くてインフレも急速に進んでいますから、アメリカ政府は金利を上げて過剰な景気の過熱を抑えようとしているわけです。

逆に日本は相変わらずのデフレ基調で、ここに来てやっと輸入品ベースの価格が上がってきている状態です。当然ながら相変わらずのゼロ金利状態です。このような状態だと日本の円に投資するよりも、アメリカのドルに投資した方がリターンが大きくなるのは明白ですから、多くの人がドルに対して投資するのでドル高・円安になるわけです。

今までの為替レートでは110円で1ドル相当の物が買えたのに、現在は130円出さないと1ドル相当の物が買えなくなっているわけですから、当然ながら輸入品の価格が上がってしまうという事になります。実際に食品や家庭用品企業が値上げに踏み切っていますし、全般的な物価上昇が発生している感じです。

ただ今回の輸入品の価格上昇は単純な為替レートの違いによるものではなく、ウクライナの戦争の影響や上海のロックダウンによる物流の停滞などの影響もかなり強いのは事実ですから、単純な話ではありません。

話を為替レートの戻しますが、一般論としては輸出型企業にとっては円安は喜ぶべき事ですし、国内販売型企業にとっては悲しむべき事という事になります。つまり企業単位で考えるとその企業の特性によって変わってきますから、考えるならば日本という国としてはメリットがあるのか、ないのかという事になります。

話が長くなるので結論を先に言うと、円安は短期的視点(数か月単位)ではデメリットが多いが、長期的視点(年の単位)ではメリットが大きいという事になります。短期的な円安は購入品価格が上がって家計支出が増えるだけですから、デメリットが大きいんですが、円安が一定期間続くと日本国内の社会的構造が少しずつ変わってきますから、最終的にはメリットが大きくなるという事です。

これを少し詳しく解説すると、国内で物を作っている企業においては輸入品の価格が高くなると、日本の国内産のものを使おうという動機が生まれます。そもそも価格が安いから輸入品の材料を使っていたわけですから、国内品との価格差が少なくなったら国産品を使うのは当然の流れという事になります。そうなると今まで海外産品に市場を取られていた国内企業の仕事が復活するわけですから、日本国内の景気も回復し始めるという事になります。

また多くの企業が海外に工場を作っていますが、その理由の一つは国内で作るよりも海外子会社で作ったものを輸入した方が安かったからそうしたわけで、国内で作った方が安いのならば、海外工場の生産を日本の工場にシフトするわけです。そうなると国内の生産高が増えるのに加えて人員不足が起こりますから、賃金も上昇傾向になるわけです。

かつて民主党政権の時には急激な円高が起こりました(政策的にそうしていた)が、その時は国内生産をあきらめて海外に進出する企業が非常に多かったのを記憶している人は多いのではないでしょうか。その時はマスコミを含めて円高で輸入品が安くなったので、国民生活は楽になったと煽っていましたが、その結果国内産業の空洞化が起こって長期のデフレ(物価も下がるが、賃金レベルはそれ以上に下がる)に陥り、日本が全く経済成長できない下地を作ったわけです。

そういう意味から考えると、日本としては現在の円安は喜ぶべきことで、短期的に物価上昇に耐える必要はありますが、これが1年以上続くようになれば日本の産業構造に変化が現れ、国内需要をベースにした賃金上昇につながり、経済は好転して行く事になると思います。

つまり、円安は短期的に終わってしまうのならば悲しむ事ですが、ある程度長期的に続くのならば喜ぶべきことと言えるでしょう。これでやっと日本経済が回復しだすのではないかと期待しています。