スモールスタートは正解か?

今回はフェースブックでやっている「製造系KAIZEN研究所」に書いた記事の1つを紹介したいと思います。ちなみに6/18日に書いた記事ですが、「製造系KAIZEN研究所」ではブログよりも頻繁に記事を書いていますので、こちらもよろしくお願いします。
 
所長通信 第32号
◉ スモールスタートは正解か?
日本の生産性が伸びなくなった理由を色々と書いていますが、その中の1つにスモールスタートと言う言葉があります。同じような言葉として「着眼大局・着手小局」と言う言葉もありますし、広い意味では「投資対効果」というのも同じ意味合いを持つ言葉だと思います。
まあこれらの言葉の意味は「失敗するといけないから、少しずつ始めなさい」という事ですが、まるで母親が子供に注意するようなニュアンスに感じられますね。何かスポーツを始めるときにも、「もったいないから最初は安い道具を揃えなさい」と言う感じです。
基本的にその背景にあるのは「失敗は悪いこと」「失敗は避けるべきこと」という考え方であって、成功のメリットよりも失敗のリスクの方を過大に評価しているという事です。
日本では子供の時からそういう教育をうけますから、大きなチャレンジには消極的で、確実に成功しそうな小さなチャレンジばかりを行うという悪弊があるように感じます。
典型的な例としては半導体産業が上げられると思います。かつて日本の半導体産業は世界シェアの9割近くを占める巨大産業でしたが、今は韓国や台湾、中国に大きく水をあけられてしまっています。
私はこうなった原因は投資の大きさにあったと思っています。仮に生産性の高い新しい半導体製造設備が開発された場合に、日本の半導体メーカーはリスクを恐れ数台単位(数億レベル)での発注しかしませんが(確実に成功することが確定しないとOKが出ない)、台湾メーカーや韓国、中国メーカーは理論的に正しいとなった場合には一気に数百億から1千億レベルの投資を行う訳です。当然装置メーカーも数台しか買わずにあれこれ要求ばかりを突き付ける日本企業よりも、標準品を数百台単位で買う台湾メーカーの方を優先するのは当然なことです。
つまり日本の半導体メーカーは日々技術革新が進んでいるような業界においてもスモールスタートを選択して、結果的にシェアを落としていってしまったわけです(異論はあると思いますが)。
このような例は最近特に多いように感じます。携帯電話にしても日本は各通信業者単位で何十機種も作ってムダなコストを発生させていた時にアップルはiphon1機種で勝負を仕掛けて勝ってしまいました。これは設備投資ではなく、新しい考え方に対する投資であり、本体は1機種でも好きなアプリを入れてもらう事によって自分専用のスマホを作るという考え方に対する投資なのです。日本の携帯メーカーの中にも同じような考え方をしていた所もあるのかもしれませんが、iphon1本に会社のほとんどの資産を投入して勝負したアップルが勝ってしまったわけです(着手大局です)。
現在のGAFAMに代表されるようなネット企業でも同様です。創業期には資金も無いのに大ぶろしきを広げて資金を集め、最初は無料でサービスを使わせるようにして短期間で一気にシェアを奪い、その後サービスを有料化したり、広告収入で莫大な利益を上げるというビジネスモデルも日本的な発想では実現できないのです。
最近はDXと言う言葉が流行っていますが、これもご多分に漏れずスモールスタートが合言葉になっています。ただこのDXに関しても同じような将来が待っているような気がしてなりません。日本が数百万レベルの小さな投資に対してあれやこれやと議論をしている内に、海外メーカー(中国や東南アジア含む)はDXに数百億レベルの投資をして一気に生産性を上げて低コスト体質に転換し、気が付いたら日本企業はまた負けてしまったという結論に到達しそうな気がするのです。
注意してほしいのは、本来スモールスタートは事前の確認のための投資であって、本来次には大きな投資が控えているはずなのです。スモールスタートで実感をつかんだら間髪入れず大型投資に踏み切る覚悟あってこそスモールスタートは活きるわけです。ただ日本企業の場合はスモールスタートで成功したとしても、次の投資もスモール投資であって何時までたっても仕事の枠組み自体を大きく変えるような取り組みは行えない様な気がしますね。
このDXには本来会社の業務体系を一変させるような力があるのですが、この力をどれだけの企業が引き出すことが出来るでしょうか。このDXに対する対応が今後の日本の生産性に大きな影響を当たえることは間違いないと思います。スーモールスタートの後にビッグな投資をして抜本的に仕事の仕組みを変えて生産性を上げる。そんな取り組みをしてほしいと思っています。